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最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)212号 判決

上告人

株式会社松本繊維工業所

右訴訟代理人

由布喜久雄

被上告人

ふこく絹綿有限会社

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人由布喜久雄の上告理由について。

債権の差押債権者が差押債権の取立命令を得た場合に、第三債務者は、差押前に債務者に対し取得した反対債権をもつて差押えられた債権と相殺をするには、右取立命令を得た差押債権者に対し相殺の意思表示をすることによりこれをなすことができるものと解すべきである。けだし、債権の取立命令を得た差押債権者は、自己の名において当該債権を行使しうる権能を有するものであるから、その債権の行使を阻むためになす第三債務者の相殺の意思表示を受領する権能をも有するものと解するのを相当とするからである。されば、本件において、被上告人が訴外古賀製綿株式会社に対し本訴請求にかかる債権の差押前に取得しかつ相殺適状に達していた反対債権をもつて取立命令をえた差押債権者である上告人に対し本訴請求権と対等額をもつて相殺をなす旨の意思表示をなしたものであるが、右相殺の意思表示を有効と認めた原判決に所論の法律の解釈を誤つた違法がない。

論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官石坂修一 裁判官五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 田中二郎)

上告代理人由布喜久雄の上告理由

原判決には民法第五一一条の解釈を誤つた違法がある。

原判決はその理由において被上告人の有益費償還請求権は上告人の申請に係る債権差押および取立命令が第三債務者たる被上告人に送達せられる以前既に被上告人においてこれを取得していたのであるから民法第五一一条の法意により被上告人は右有益費償還請求権による相殺を以て差押債権者たる上告人に対抗し得る訳である、而して上告人の取立命令による本訴請求債権と被上告人の前記有益費償還請求権とは昭和三三年七月末日相殺適状となり、被上告人が相殺の意思表示をなしたことが明らかであるから前記相殺適状の時に遡り被上告人の債務は消滅の効果を生じた訳で被上告人の相殺の抗弁は理由がある旨判示して、被上告人の有益償還請求権を以て上告人の取立命令による本訴請求権に対して相殺することができると判断している。

しかしながら民法第五一一条の法意は第一審判決が判示するように第三債務者は差押以前に取得した債権によつて自己の債権者に対してなした相殺を以て差押債権者に対抗することができるというのである。(昭和二六年(オ)第三三六号債務不存在確認請求事件、同二七年五月六日第三小法廷判決参照)

次に原判決には取立命令の取立権を債権と解した違法がある。

原判決は上告人の取立命令による本訴請求権というけれども差押債権者たる上告人が取立命令により取得した取立権は取立命令により上告人に付与された権限(上告人自ら差押債権を取立て得る権限)であつて債権ではないのである。

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